AI(人工知能)の進化が目覚ましい近年ですが、「ChatGPT」なども登場し、将来的には人間の仕事がAIに取って代わられていくともいわれています。
すでにAIによる自動運転タクシーや、飲食店でもAIによる配膳ロボットや調理ロボットなどが登場しています。
医師は将来的にも無くならない職業といわれていますが、医療業界もAIの活用は進んでいて、手術支援ロボットやリハビリ支援ロボット、診療支援ロボットまで登場しています。
少子高齢化や医師不足の問題解消のためにも、AI技術を積極的に取り入れていくことは望ましいことですが、人間の力も残していきたいものですね。
では、AIロボットにも負けない人間の強みは何でしょう?それは、人間ならではのコミュニケーションではないでしょうか。マニュアル通りではないコミュニケーションができる医師は、今後のAI時代にもきっと必要とされる存在となることでしょう。
目次
≫≫≫ 医師に必要なスキルとは?
医師に求められるスキルとは、どのようなものがあるでしょう?
何よりもまずは、専門的な医学知識や技術が必須です。また、判断力や推察力なども必要です。さらに、緊急事態に対応する能力なども求められるでしょう。
それらに加えて重要なスキルは、コミュニケーション能力です。患者から症状や既往歴を聞き出したり、病名や治療方法などを説明したりする必要がありますから、適切なコミュニケーションをとることは、とても重要です。
また、患者だけでなく、ともに働く多くのスタッフとも情報を共有したり指示を出したりと、円滑なコミュニケーションが不可欠でしょう。
これらのコミュニケーションが不足すると、患者が不安や不満を抱いたり、スタッフとの連携がうまくいかず医療ミスにつながってしまったりすることも考えられます。
コミュニケーションスキルは、あらゆる場面で必要となるスキルですので、磨いておくに越したことはないでしょう。
≫≫≫ コミュニケーションの基本
コミュニケーションとは、お互いの思考や情報などを伝え合うことですが、言葉だけではなく表情や身振り手振りを使ったりして、人それぞれの伝え方があります。
受け取り方も人それぞれですが、より良いコミュニケーションのために、基本的なコツや法則などを知っておくとよいかもしれません。
アクティブリスニング
コミュニケーションにおいて大切なことは、まず「聴くこと」です。
「アクティブリスニング(積極的傾聴)」といわれる方法がありますが、これは、その名のとおり相手の話すことに積極的に耳を傾け、よく聴くことにより、相手の気持ちや考えを理解しようとする姿勢を示す方法です。
アクティブリスニングにおいては、3つの原則があります。
① 共感的理解
相手の話す内容や感情を、その人の目線や立場に立って共感しながら理解しようとする姿勢です。
② 無条件の肯定的関心
相手の話すことを自分の好き嫌いや常識などで批評したり否定したりせずに受け入れ、関心を示しながら聴く姿勢です。
③ 自己一致
自己一致とは、内面(感じていること、考えていることなど)と外面(言動や態度)が一致している状態のことですが、話の聴き手にとっても自己一致が必要です。相手の話を理解できていない状態なのに「わかりますよ~」などと言ったりせず、素直にわからない部分を質問したりして矛盾のない姿勢を示すことで、相手も信頼して本心を話しやすくなったりするのです。
患者の診察において、また看護師などスタッフとの会話において、「聴くこと」を意識してみると、本質的な部分が理解できたり、より良い情報が得られたりして、正確な診断を導き出すことに繋がるかもしれません。
ピンポンルール
コミュニケーションとは、双方向のものです。聴くだけ、話すだけの一方通行のものは、コミュニケーションとは言えません。
「ピンポンルール」といわれるものがありますが、これは、会話をピンポン(卓球)のラリーのように弾ませるためには、話す割合を4~6割にするというものです。
6割を超えて話しすぎても、4割を超えず話さなすぎても、良いコミュニケーションとは言えず、「自分 4:相手 6」の割合が黄金比とされています。
聴くこと、話すこと、両方の程よいバランスが大切ということなのです。
患者にとっては、症状や不安な気持ちをしっかり聴いて、治療方法などを適切に話してくれる医師が望ましいといえるでしょう。
メラビアンの法則
コミュニケーションにおいて、言語での伝達(バーバルコミュニケーション)だけではなく、非言語による伝達(ノンバーバルコミュニケーション)も重要な要素です。
「メラビアンの法則」といわれる法則がありますが、これは、感情や態度について矛盾したメッセージが発せられたときに、人はどのように受けとめるかというのを、3つの要素で数値化したものです。
別名「7-38-55ルール」や「3Ⅴの法則」ともいわれています。誤解されやすいのですが、決して「話す内容よりも見た目や話し方が重要である」ということではありません。
この数値は、それぞれの情報が矛盾して表現された場合、どの情報を重視するか、ということを示すものです。
例えば、医師が患者に「大丈夫ですよ、すぐに治ります」と治療方法を伝えたとしても、その表情が深刻で暗い声色だったら、どのように伝わるでしょう?「大丈夫と言っていたけれど、深刻な病気なのではないか・・・」と、患者に誤解を与えてしまい、不安にさせてしまうかもしれません。
要は、話す内容と視覚・聴覚情報が矛盾しないように、言葉以外の表現も大切だということなのです。
≫≫≫ Z世代とのコミュニケーション
コミュニケーションは、患者だけでなく沢山のスタッフとの関わりにおいて重要となりますが、皆それぞれ性格や性別、年代が違います。
特に世代間における感覚の違いというのは、日常的に感じることも多いのではないでしょうか。とはいえ、部下を持つ医師にとっては、若い医師を育てることも大切な仕事のひとつです。
そこで、若い世代の特徴を知っておくと、役に立つかもしれません。いつの時代も若者を表す言葉がありますが、現代の若者を指すのが「Z世代」です。
Z世代とは、明確な定義があるわけではないですが、概ね1990年代半ばから2010年代前半頃に生まれた世代を指すことが多く、年齢でいうと10代半ばから20代後半になります。では、Z世代の特徴を見ていきましょう。
コスパ・タイパ重視
コスパ(コストパフォーマンス)とは「費用対効果」、タイパ(タイムパフォーマンス)とは「時間対効果」を表しますが、Z世代はこれらを重視するといわれます。
Z世代は、物心ついた頃からインターネットが日常的に存在する「デジタルネイティブ」といわれる世代で、SNSを使いこなす世代です。
大量の様々な情報に触れて育ってきているため、情報感度が高く、多くの選択肢から自分に適するものを選ぶ感覚が優れているといえます。
ですから、合理的思考でコスパやタイパを重視するのでしょう。仕事においても無駄を避けたいという傾向がありますので、合理的な説明などが必要といえるでしょう。
また、ワークライフバランスも重視するため、飲み会などを強要したり、プライベートを詮索するようなことは避けたほうがよいでしょう。
ダイバーシティ尊重
ダイバーシティとは「多様性」を意味しますが、デジタルネイティブであるZ世代は多様性を尊重するといわれます。
子供の頃から様々な情報に触れているため、多様な価値観や考えがあることを知っていて、自分と他者との違いを自然に受け入れて互いに尊重できるのでしょう。
逆にいえば、多様性を受け入れない、個性を尊重しないような姿勢には抵抗があるといえるでしょう。
意見を押し付けるのではなく、人それぞれの価値観や考え方、個性を柔軟に受け入れて尊重しながら指導するよう心がけましょう。
承認欲求
承認欲求とは他者から認められたいという欲求ですが、SNS世代であるZ世代は承認欲求が強いといわれます。
SNSでの発信やコミュニケーションが当たり前の世代ですので、フォロワー数や「いいね!」を常に意識するような世界の中で、承認欲求が強くなっていく傾向にあるのかもしれません。
承認欲求は悪いものではなく、人間が持つ自然な欲求です。他者に認められたいと思って頑張ることは大切なことですし、仕事をする上でのモチベーションにもなるはずです。
決して「べた褒め」する必要はありませんが、良い部分を見つけたら「いいね!」と積極的に伝えてあげると、より前向きに仕事に取り組めるようになるでしょう。
Z世代の特徴をあげてみましたが、あくまでも参考程度にとどめておいてください。
Z世代を一括りにしすぎたり決めつけたりせずに、一人一人の個性に目を向けることを大切にするとよいでしょう。
≫≫≫ まとめ
コミュニケーションについてのコツなどをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
この記事でご紹介したことは絶対ではありません。ルールを意識しすぎて話せなくなってしまっては意味がないですから、難しく考えすぎず、相手を尊重することを念頭において向き合っていけばよいでしょう。
現代はコミュニケーションが難しい時代でもあります。ちょっとしたことで、ハラスメントだのコンプライアンスだのと騒がれてしまいます。
ですが、人と人とのコミュニケーションは大切で欠かせないものです。医療の現場においても、患者に寄り添う姿勢で話を聴き、わかりやすく説明するなど、適切なコミュニケーションによって患者の満足度は増すでしょうし、いわゆるモンスターペイシェント対策にもなるかもしれません。
また、共に働くスタッフとも良好なコミュニケーションを取っていれば、スムーズで正確な情報共有ができるでしょうし、部下とのコミュニケーションがうまくいけば、より優秀な医師が育つかもしれません。
コミュニケーションの術を身につけた医師は、より信頼され、今後も必要とされていくことでしょう。